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[ お薬による治療 ]

症状が比較的軽い場合には、内服薬による治療から始めることが一般的です。


前立腺肥大症の薬は大きく3種類です。前立腺肥大症の治療に広く使用されている3種類の薬を中心に説明します。

実際の処方箋には下記に示した薬の種類ではなく、薬の名称が記載されていますので、医師・薬剤師に処方された薬の種類を確認しておいてもよいでしょう。

どの薬にもいえることですが、医師から指示された通り、きちんと服用することが大切です。

1

膀胱出口の閉塞を改善する薬

アドレナリン受容体遮断薬(α1遮断薬)

膀胱出口の閉塞を改善することで尿の通をよくする薬です。

前立腺と膀胱頸部の筋肉(平滑筋)を緊張させているα1アドレナリン受容体を妨げて、膀胱の出口を狭くする働きを弱めることで、前立腺肥大症による症状を軽減します。

服用開始後、比較的早期に症状が改善します。

2

前立腺や尿道の筋肉を緩める薬

ホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5阻害薬)

前立腺や尿道の筋肉を緩めることで、尿の通りをよくする薬です。

前立腺と膀胱頸部の筋肉(平滑筋)を緊張させているα1アドレナリン受容体を妨げて、膀胱の出口を狭くする働きを弱めることで、前立腺肥大症による症状を軽減します。

服用開始後、比較的早期に症状が改善します。

3

前立腺を小さくする薬

5α還元酵素阻害薬

男性ホルモンの一種であるテストステロンが前立腺に取り込まれると5α還元酵素によって、活性型の5αジヒドロテストステロン(DHT)になり、前立腺の肥大に関与します。

5α還元酵素阻害薬はDHTの産生量を低下させて、前立腺を小さくすることで症状を改善します。

その他の薬

●抗アンドロゲン薬

男性ホルモンのアンドロゲンの働きを抑えて前立腺を小さくし、前立腺肥大症に伴う症状を改善します。 また薬によっては安全性の面で長期間服用を避けた方がよいもの、長期間服用しても効果がなければ継続すべきでないとされるものがあります。

●抗コリン薬

過活動膀胱に使われている薬で、膀胱の緊張を緩めて尿意切迫感や頻尿、切迫性尿失禁などの症状を改善します。 前立腺肥大症に加えて過活動膀胱を伴っている患者さんに、併用しての処方が検討されます。

●アドレナリン受容体β3作動薬

抗コリン薬と同様に過活動膀胱を改善します。 抗コリン薬より口内乾燥、便秘などの副作用が少ないとされています。

●漢方薬

一部の漢方薬には保険適用がありますが、前立腺肥大症に対して有効かどうか、根拠が十分ではない、とされています。

※健康食品やサプリメントは、適切な摂取量が明確になっておらず、注意が必要なものもあります。 摂取を検討する場合は、医師・薬剤師に相談しましょう。

[ 手術による治療 ]

薬での治療効果が不十分な場合や、尿閉(尿が出ない)・血尿・膀胱結石・尿路感染症などの合併症*1がある、またはその恐れがある場合は手術が検討されます。

主治医とよく相談し、理解・納得の上で治療を受けましょう。

*1 「合併症」とは 、ある 病気が 原因となって起こる別の病気、または手術や検査などの後、それらがもとになって起こることがある病気をいいます。

内視鏡による手術が主流です

今日、前立腺肥大症に対する主な手術の方法は、肥大しすぎた前立腺組織を切除や蒸散により取り除く方法です。

多くの場合は開腹せず、尿道から内視鏡を入れて電気メスやレーザーで治療を行う低侵襲な手術が一般的です。

手術方法の選択は、前立腺肥大症の特性、患者さんの状態、医療施設の設備、術者の習熟度を考慮して選択されます。

内視鏡による手術の治療効果はいずれも長期にわたり維持され、また、開腹手術に比べて体への負担が少ないといわれています。

電気メスで肥大した前立腺を
少しずつ削るように切り取る手術(TURP)

経尿道的前立腺切除術
(TURP=transurethral resection of the prostate)

古くから行われており、現在も広く実施されている手術方法の一つで、先端にループ状の電気メスを付けた内視鏡を尿道から入れて高周波の電流を流し、肥大した前立腺を少しずつ削るように切り取っていきます。

他の内視鏡による手術に比べると、手術中の出血やそれに伴う輸血が必要になる頻度が高いこと、灌流液によるTUR症候群(低ナトリウム血症)が起きるリスクが高いとされています。 また、術後の主な合併症としては尿閉、射精障害などがあります。

手術の所要時間

1~2時間程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

5-8日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

電気メスを用いて、
前立腺を被膜から剥離してくり抜くように切除する手術(TUEB)

経尿道的前立腺核出術
(TUEB= transurethral enucleation with bipolar)

従来行われてきた経尿道的前立腺切除術(TURP)の合併症などを軽減する方法として開発された方法です。

尿道から内視鏡を挿入して前立腺を観察しながら、アーク放電という電気的な力を利用した電気メスを用いて前立腺肥大症の部分を核出します。

核出した前立腺は膀胱の中で特殊な機械で細切して体外に取り出します。

上記TURPより、前立腺肥大症をより完全に取り除け、かつ出血が少なく、そのため短い入院期間で済みます。また容積が80〜100gという大きな前立腺肥大症にも対応可能です。

術後の主な合併症としては、尿道狭窄や腹圧性尿失禁などがあります。

手術の所要時間

1~2時間程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

5-8日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

レーザー光を照射し、
前立腺を被膜から剥離してくり抜くように切除する手術(HoLEP)

ホルミウムレーザー前立腺核出術
HoLEP= holmium laser enucleation of the prostate)

内視鏡の先端からホルミウムレーザーを照射し、肥大した前立腺を被膜から剥離して核出(くり抜くように切除)する手術です。

ホルミウムレーザーは、そのレーザー特性から衝撃波を発生させることで前立腺組織の剥離が可能です。

くり抜いた前立腺はモーセレーターという機器で粉砕した後、吸引して体外に排出します。

残存する前立腺組織が少なく、再発の可能性が少ないとされています。

TURPと比較すると、治療効果は同等である一方で、出血は少なく、入院期間と関係する尿道カテーテル*2の留置期間も短いとされています。 但し、術後の尿閉や尿失禁などの合併症はTURPと同等の頻度で発生するとされています。

手術の所要時間

1~2時間程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

4-7日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

*2「尿道カテーテル」は、手術した箇所を保護するため、尿道に留置されます。

組織に接触させてレーザー光を照射し、
肥大した前立腺組織を蒸散する手術(CVP)

接触式レーザー前立腺蒸散術
(CVP = contact vaporization of the prostate )

内視鏡の先端からファイバー先端を組織に接触させてレーザーを照射し、肥大した前立腺組織を蒸散する手術です。

980nmの波長をもつレーザーは、その特性から前立腺組織の赤血球中に含まれるヘモグロビンと水を吸収されるため、より効率的に前立腺組織を蒸散することが可能です。

腫大した前立腺組織に光ファイバーを直接接触させレーザーを照射すると、組織が高熱となり、血液や水分が一瞬で沸騰・蒸発し組織が消失します。

切除と止血を同時に行っていくため、出血リスクが低く、抗血小板薬や抗凝固薬を複数内服している方に対しても行うことができます。(※1)

前述のTUR-PやHoLEPよりも細い内視鏡を使用するため、術後の尿道狭窄リスクを抑えられるといったメリットもあります入院期間と関係する尿道カテーテルの留置期間はHoLEPよりさらに短く、多くの場合24時間以内とされ自然排尿への回復が早いため、他の内視鏡手術と比較しても早期に通常の生活に戻ることができます。

また、術中の出血が少ないことから、抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)を服用中の方でも安全に手術を受けられます。

内視鏡による手術の中でも比較的体への負担が少ない手術方法です。

※1:内服を中断できる場合は中断して行ったほうが出血リスクが低く、より安全です。

図5

手術の所要時間

1時間程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

3-4日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

レーザー光を照射し、
肥大した前立腺組織を蒸散する手術(PVP)

532nmレーザー光選択的前立腺蒸散術
(PVP = photoselective vaporization of the prostate )

内視鏡の先端からグリーンレーザーを照射し、肥大した前立腺組織を蒸散する手術です。

532nmの波長をもつグリーンレーザーは、その特性から前立腺組織の赤血球中に含まれるヘモグロビンに選択的に吸収されるため、効率的に前立腺組織を蒸散することが可能です。

CVPと同様に自然排尿への回復が早いため、他の内視鏡手術と比較しても早期に通常の生活に戻ることができます。

また、術中の出血が少ないことから、抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)を服用中の方でも安全に手術を受けられます。(※1)

内視鏡による手術の中でも比較的体への負担が少ない手術方法です。

※1:内服を中断できる場合は中断して行ったほうが出血リスクが低く、より安全です。

手術の所要時間

1時間程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

3-4日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

インプラントを留置し、
前⽴腺を圧迫することで内腔を広げる手術(PUL)

経尿道的前立腺吊り上げ術
PUL = Prostatic urethral lift)

2022年4月から保険診療として認可となった、新しい手術方法です。

前立腺組織を切開したりすることはなく、肥大した前立腺部の尿道を吊り上げることで、尿道のスペースを広げる術式です。

尿道から内視鏡を挿入し、ウロリフトインプラントを4~6箇所に留置します。前立腺を圧迫することにより尿道の内腔を広げます。

治療効果に制限がありますが、性機能障害が少なく、心疾患、肺疾患、抗凝固薬内服などがある方にも施術が可能です。

しかしながら、前立腺が100㎖を超える、もしくは膀胱内突出のある前立腺肥大の方は施術対象となりません。

手術の所要時間

20~30分程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

2日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

水蒸気を噴射し、
前立腺組織を壊死させ前⽴腺内腔を広げる手術(WAVE)

経尿道的水蒸気治療
WAVE = water vapor energy)

2022年9月から保険診療として認可となった、新しい手術方法です。

内視鏡を尿道から前立腺に挿入し、103℃の水蒸気を9秒間噴霧し、前立腺組織を約70℃まで上昇させ組織を壊死する低侵襲な術式です。

既存の温熱療法とくらべ、水蒸気を利用しているため対流によってムラのない治療効果が実現され、尿道粘膜や性機能温存を可能としました。

術後カテーテルを抜去しても尿が出にくい状態の時にはカテーテルを再留置して1週間程度経過を見る場合があります。

治療効果は、おおよそ2週間程度、長くても3カ月後には排尿状態の改善が期待できます。

手術の所要時間

20~30分程度(前立腺の大きさにもよって前後します)

麻酔

下半身麻酔または全身麻酔

入院期間

5~7日程度(患者さんの状態や医療機関によって異なります)

その他の手術

●開放手術

前立腺の肥大が顕著な場合や、手術が必要な合併症がある場合など、開腹して前立腺を全部摘出することがあります。

●高温度療法

尿道や直腸からカテーテルを入れ、マイクロ波やラジオ波、超音波などを出して前立腺を加熱し壊死させることで症状を改善する方法です。

●尿道ステント

形状記憶合金などでできた管を尿道に入れて、尿道を広げるという方法で、ほかの病気のために手術ができない場合に行われます。