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前立腺肥大症と前立腺がんは症状が似てる?

前立腺肥大症と「前立腺がん」は全く違う病気です

 

今回の記事では、前立腺肥大症と同じような症状が出現する『前立腺がん』についてお伝えします。

 

前立腺がんは高齢者のがんといわれており、約90%が60歳以上の方で、近年 急激に増えてきています。
前立腺がんは一般的に進行が遅く、発がんしてからがんと診断されるま でには数年かかります。また他のがんに比べ、薬が効きやすいという特徴もあります。
現在、健康診断でPSA(前立腺特異抗原)の項目が追加されたため、無症状でも発見されるようになりました。

 

前立腺がんと前立腺肥大症は、加齢とともに増加する男性の病気という点では共通していますが、発生する場所も性質も異なる病気です。
前立腺がんは悪性の腫瘍で前立腺の外に広がって他の臓器に転移しますが、前立腺肥大症は良性の腫瘍で外に広がったり、転移はしません。しかし、どちらも高齢者の病気なので、両方が同時に発生することもあります。

前立腺肥大症は頻尿、排尿困難、残尿感などの症状がみられるのが特徴です。
これに対して前立腺がんは、初期の段階ではほとんど自覚症状がみられませんが、がんが大きくなると、前立腺肥大症と同じような症状が出現します。
さらに前立腺がんが進行して骨に転移すると、腰痛や歩行困難などをきたします。

 

 

前立腺がんの症状

初期症状

早期では、自覚症状がほとんどありません。

 

よくある症状

がんが大きくなって尿道が圧迫されるようになってくると、主に排尿に関連した症状が出現します。

・排尿困難(尿が出にくい)
・頻尿(尿の回数が多い)
・残尿感(尿が出きらない感じがする)
・尿意切迫(尿意を感じ我慢できない)
・尿閉(尿道が強く圧迫され尿が出ない)
・下腹部の違和感

これらの症状は前立腺肥大症に似ています。しかし前立腺肥大症と前立腺がんは別の病気であり、前立腺肥大症が前立腺がんになることはありません。

 

進行したときの症状

がんが尿道や膀胱に広がると、排尿に関連した症状に加え、排尿以外の様々な症状が出現します。

・血尿(尿に血液が混じる)
・頻尿の増悪
・尿失禁(尿が漏れる)
・水腎症(がんが尿管を押しつぶしてしまうと尿がうまく流れなくなって腎臓が腫れる)
・血精液症(がんが精嚢に広がると精液に血が混じることがある)
・背部痛・腰痛、骨折

がんが骨に転移を起こすとその部位に痛みを生じることがあり、背部痛や腰痛として感じられたり、手が痺れたりすることもあります。
転移をした部分の骨が脆くなると骨折をしやすくなります。
そのため、前立腺がんと気付かずに整形外科を受診した際に前立腺がんが発見される事もあります。

 

 

前立腺がん検診の流れ

PSA測定
血液検査です。PSAが正常値(4ng/ml)を超えている場合は、次の検査に進みます。

 

超音波検査
直腸より超音波プローブを挿入し、前立腺の大きさ、形を見ます。

 

直腸診
肛門から指を入れ前立腺の大きさや硬さ、 前立腺表面の凸凹、触れると痛みがあるかなどをを触診します。

 

MRI検査
前立腺がんの有無、進行度合いを確認します。

 

⇩ 上記の検査で前立腺がんの可能性がある場合、前立腺生検検査を行います。⇩

 

前立腺生検検査

検診や血液検査などで、がんの疑いがある場合に、前立腺の組織を採取し、顕微鏡で確認するために行います。現在、前立腺癌の確定診断のために必須の検査です。
術後の合併症を予防するため、前もって抗生物質を内服していただきます。(既に内服している方は結構です)検査の説明と同時に、必要ならば採血等を行います。
生検は以下のような手順で行います。
・お尻(肛門)から超音波プローブを挿入して前立腺を観察します。
・痛み止めの局所麻酔をします。
・超音波で見ながら、前立腺に自動生検針という針を刺し、組織を12箇所程度採取します。
検査終了後、血尿の程度を確認します。

 

 

前立腺がんの治療法

前立腺がんの治療は様々であり、それぞれ長所と短所があります。そのため、がんの進行度や患者さんの全身状態に合わせて医師は治療法を選択し、患者さんが納得できる最適な治療法を模索していきます。

 

転移がない場合の治療法

明らかな転移がない場合はがんの完治を目指した根治的治療の適応となります。

手術療法
前立腺を全摘し、膀胱と尿道を新たに吻合します。
手術の方法には、開腹手術、腹腔鏡手術(腹腔鏡下手術)、ロボット手術がありますが、近年はロボット手術が増えてきています。
全身麻酔下の手術で術後10日前後の入院が必要となります。
手術後の主な合併症には、尿失禁、性機能障害、鼠経ヘルニアがあります。

 

放射線治療
放射線治療は、高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を壊し、がんを小さくする治療法です。
大きく分けて外照射療法組織内照射療法があります。それぞれにさまざまな方法があり、治療期間や副作用のあらわれ方などに特徴があります。
治療期間は一般的な外照射で約2か月程度の外来通院が必要です。外照射はがんが前立腺からはみ出した局所進行がんでも治療可能で、ホルモン治療を併用することが一般的です。
合併症としては、放射線による放射線性粘膜障害があります。直腸粘膜障害による下血、尿道や膀胱の粘膜障害による血尿や頻尿などがあります。

 

転移がある場合の治療法

ホルモン治療/内分泌療法
診断時に既に転移がある場合は、残念ながら完治は困難で薬物治療を選択します。
本来、男性ホルモンは前立腺がんの増殖・生存に不可欠なもので、男性ホルモンが前立腺がんに作用しないようにブロックする薬物治療をホルモン治療と言います。
外来通院での治療が可能ですが、根治する治療法ではありません。また、長期にわたりホルモン治療を継続すると治療効果が減弱し、病気が進行してしまうことがあります。
その場合は新規ホルモン剤(アンドロゲン受容体シグナル阻害剤)や化学療法(抗がん剤治療)へ治療法を切り替えていきます。
副作用として、倦怠感、ほてりやのぼせ感(ホットフラッシュ)、肥満や体重増加、骨密度低下、勃起不全、心血管系疾患の発症、肝機能低下などがあります。

 

化学療法
いわゆる抗がん剤による治療です。ホルモン治療が効かなくなってしまった前立腺がんに対して行われます。
副作用として骨髄抑制(免疫力低下、貧血、易出血性)、脱毛、嘔気、食欲低下などがあります。

 

骨転移治療薬
骨修飾薬(骨転移部の骨破壊を防止し骨痛や骨折を防ぐ)や塩化ラジウム223(α線による骨転移治療薬)による治療です。
前立腺がんは骨へ転移しやすいことが特徴の一つです。前立腺がんの骨転移は、骨盤、脊椎、大腿骨、肋骨などに多くみられます。

 

緩和的ケア
前立腺がんの進行により様々な苦痛症状がみられた場合、緩和医療科の専門医や認定看護師と密に連携し、鎮痛剤の投与をはじめ身体的・精神的な苦痛の緩和に努めます。

 

 

 

 

前立腺肥大症の症状は前立腺がんでもみられるため、病状が重くないからといって放置すると、前立腺がんの発見の遅れにつながります。
もし、排尿に少しでも不安を感じた場合は、かかりつけ医に相談するか、泌尿器科を受診しましょう。
排尿のことで悩まない健康的な毎日を送りたいですね。

 

 

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